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深淵を……
作:高居空
みんな〜、こんばんわ〜♪ 今夜もわたしの配信見てくれてありがと〜♪
さあて、まずは〜、今日わたし、ちょ〜っと怖いうわさ話聞いちゃって、最初にその話、しちゃってもいいかなあ?
おっけ〜! それじゃあ……
みんな、「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」って言葉、聞いたことある〜?
なんでも昔のえら〜い哲学者の人が残した言葉らしいんだけど、調べてみると、正直すっごく抽象的すぎて、おかげで色んな解釈ができるって言われてるんだよね。
で、わたしが知ってたのは「深淵に潜む物を目撃したとき、向こうもこちらを認識してるから、逃げられると思うな、いあ、いあ!」っていうラウグラフティーなやつなんだけど、今日わたしが聞いたのはそれにちょっと似てるんだ。
最近配信者界隈で広がってる噂だってことなんだけど、いわく、「こちらからアバターを見ているとき、向こう側でもまたこちらをアバターとしてみているのだ〜」ってやつなんだ。
え? よく分かんない?
そっかあ、そうだよねえ。
じゃちょっと分かりやすく例を交えて言うね。
例えば、配信中に、中の人とかいうのが、機材に向かって体を動かしてるとするじゃない?
その時、中の人は、「自分が画面向こうのアバターにさせたい動きがあって、体を動かしてる」と認識してると思うんだ。
でも、実際はそうじゃなくて、本当は画面向こうのアバターの方から、「自分はこういう動きをしたいからこう動け」って無言の指令を飛ばしてるっていうんだよね。
で、その思念を受信した中の人が、向こうの指示を自分の意志だと思いこんで体を動かしてるっていうわけ。う〜ん、電波デンパ♪
でもさ、もしもこれが本当の話だったら、ちょっと怖くない? だって、アバター側は相手に意志があることを知ってるけど、中の人側はアバターに意志があるなんて欠片も思ってないわけじゃない?
当然、中の人側の心のファイアーウォールは未設定。そこに悪性情報がバンバン飛んできてる訳だから、まさにウイルス感染、データ改ざん待ったなし! 気が付かないうちに中身が書き換えられてるのだ〜ってね♪
で、向こうの指示を自分の意志だと思いこんでる中の人が、そのままずるずると配信をし続けたらどうなるか…………。
多分、最終的には向こうと同じになっちゃうんじゃないかなあ? 上書きされ続けてる中身はもちろん、もしかしたら外見も……ね。
え、そんなこと言ってるわたしはどうなんだって?
やだなあ、今の話は中の人がいるっていうのが前提の配信者の話でしょ? わたし、前からみんなに言ってるじゃない。
中の人なんて“もう”いないって。
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