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オンライン申込
作:高居空
へえ、これは便利かもな。
ディスプレイを前に各種データを入力しながら、俺はそう独りごちた。
画面には、某大型即売会の申込みフォームが表示されている。
オンライン全盛のこの時代、その中で、この大型即売会だけは頑としてアナログのみでの参加受付を行っていたのだが、今回ようやくオンライン受付が解禁されたのだ。
正直、他の即売会の状況を考えれば遅きに失する感は否めないが、後発のサービスには、先行するサービスの優れた部分を模倣し、また、それらが実際の運用で蓄積してきたノウハウを当初から反映できるという利点がある。
実際、ここまでの入力は実にストレスフリーに進んでいる。
予測変換や、あらかじめ用意されたプルダウンによる選択入力など、細かな入力サポートにより、こちら側への負荷無く項目が埋まっていく。
さらに、説明によると、入力誤りや矛盾点があったときには、最新AIが自動的に複数項目を類推修正する機能も搭載されているらしい。
そんなこんなで入力は滞ることなく進んでいったが、とある項目でその手がストップする。
うん? なんだこりゃ?
それは、自分の職業を入力する項目だった。
他のいくつかの項目と同じく、プルダウン式により、あらかじめ用意された様々な職業の中から回答を選択する形式だったが、その中に、明らかに不自然な選択肢が紛れ込んでいたのだ。
会社員、自営業といった職業が表示されたリスト、その下段の方に、“JD”、“JK”、“JC”、“JS”という項目が存在していたのだ。
なんだこれは? ひょっとして、ネット界隈で言うところの“女子○○”のことか?
いやでも、リストの中には、“大学生”、“高校生”という項目が存在するぞ。“JD”、“JK”を別書きする意味がどこにある? それに、アナログだった頃の説明書きによれば、サークルの代表者は義務教育を終了していることが条件だったはずだ。“JC”、“JS”は、そもそも対象外だろう。それとも、オンライン受付導入に合わせて基準を改正したのか? もしくはオンライン限定で、受付を可能としているとか。
興味を覚えた俺は、職業欄からその項目をクリックし……
「そしたら、勝手にAIが記入項目を修正し始めて、気が付いたらこんなになってたんですよ〜」
即売会のサークルブースで、売り子はそう一通り話した後に、「困っちゃいますよね〜」と笑みを浮かべた。その表情は、口にした言葉とは裏腹にかげりが無く、浮かんでいるのが苦笑なのかどうなのか判断がつかない。
いつも即売会のたびに新刊を買いに来ているサークルで、見慣れない女の子が売り子をしていたので、サークル主は不在なのか聞いたところ、返ってきたのがこれだったのだが、さすがにこれはネタだろう。
目の前の女の子は、ヘソ出しノースリーブにミニスカートという、可愛い女の子にしか許されないような格好をしている。声も愛らしいアニメ声だ。これで「元男です」といわれても信憑性はない。ここがTSをメインにしているサークルということからも、「そう言う設定の売り子」と考えるのが妥当だろう。
そんなこちらの内心を見透かしたのか、目の前の女の子は目を細め、意味深な視線を向けてくる。
「ふ〜ん、疑ってるんだ〜? なら、お客さんも試しに次のイベントサークル申込みフォームで試してみたらどうですか〜? 参加費決済完了するまでは本申込みになりませんから、本当にサークル参加するつもりがなくても大丈夫ですよ〜? そうしたらどうなるか……。ふふっ、楽しみですね♪」
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