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同音異義
作:高居空


「アハっ! あんた、自分のタチバっていうのがわかってる〜? このサイシンのミコに勝てると思ってる〜?」
  嗜虐的な笑みを浮かべ、挑発的な言葉を発する少女。
「確かにその衣装、一般的な巫女のイメージとは大分違うけど、それが最先端の巫女のコスチュームってことなのか?」
  いつ戦闘が始まってもおかしくない張りつめた空気の中、油断無く構えを取りながら、俺は自称巫女の少女に問いかける。
  少女が身に纏った衣装は、俺の知っている巫女装束とは明らかに異なる物だった。白と赤が基本ではあるが、ワンピースの水着を思わせる形と露出度、そして何より、頭に被っている何かのキャラクターをモチーフにしたと思わせる白いモフモフの耳付きフードが、異質さを際立たせている。有り体に言ってしまえば、巫女感ゼロ、というやつだ。
「ちょ、違います、ご主人様! 彼女の言っているサイシンというのは、“最も新しい”ではなくて、“祭り”に“神”と書くやつです!」
  隣で、俺のサポートとして共に戦ってくれているNPCの少女が、まるで漫画のように汗を飛ばしながら手をブンブン振って訂正してくる。
「む、そうなのか?」
  慌てるパートナーの姿を可愛いなと思いつつ、俺は巫女と名乗った少女へと再び目を向ける。
  メタバース空間のアバターに自意識を転送して遊ぶフルダイブ式ゲーム。技術の進歩によりこの形式が主流になったゲーム業界では今、フルダイブ非対応の時代に流行ったゲームのフルダイブリメイク版の発表が相次いでいる。今俺が遊んでいるゲームも、そうしたリメイク版の一つだった。
  そして、こうしたリメイク版のフルダイブ式ゲームで現在課題となっているのが、今まさにここで起こっている同音異義語の問題である。
  原作のテキスト式ゲームであれば、同音で複数の漢字が当てはまる言葉を使っても何ら問題はなかったのだが、現実世界と同じように構築され、自身もアバターとしてその世界に入り込んで進めていくフルダイブ式では、当然、相手の台詞に合わせて字幕が表示されるなんて機能はない。ここで、原作ゲームの再現で同音異義語を用いた台詞回しを用いてしまうと、原作未プレイのプレイヤーの中には、本来とは別の意味に捉えてしまうものも出てくるのだ。ちょうど今の俺のように。
  このゲームではその対策として、プレイヤーのパートナーとして同行するNPCに、プレイヤーが間違った解釈をしたときにすかさず訂正を入れる機能が備わっている。俺のパートナーが慌てて口を挟んできたのも、その機能が発動したのだろう。
「へえ、なかなかナメた間違いしてくれんじゃねーか。カクゴ、できてるんだろうなぁ……」
  一連のやりとりに、自称巫女の少女は目を細め、その容姿とは似つかないドスの効いた声を響かせる。同時に彼女の周りに沸き立つ魔力の光。
「あわわ、まずいですよご主人様……。何だか逆上してテンション振り切ったのか、いきなり相手のチャージゲージマックスになってます……。必殺攻撃、来ちゃいますよぅ」
  くっ、これは確かにやばい。通常なら、相手の必殺チャージゲージが貯まる頃には、うちのパートナーの必殺チャージもマックスになっており、先手でパートナーによる防御力特大アップの必殺技を展開することにより、ダメージを大幅軽減できるのだが、いきなり必殺ぶっぱは想定外だ。あとは、相手の必殺攻撃が単体攻撃よりも威力の低い全体攻撃で、かつダメージよりも状態異常付加のデバフメインであることを祈ることしか……。
「さあ、駆除してあげる!」
  次の瞬間、赤い極太の光柱がなぎ払うように放たれ、俺の視界を埋め尽くした……。



  う……。
  どうやら衝撃で意識が飛んでいたらしい。俺の目には瓦礫の散乱した地面が映っていた。
  ヒットポイントは……大丈夫、まだ3割ほど残っている。これならまだ……。
「あれえ? さっきまでのイセイはどうしたの〜?」
  前方からは、自称巫女の少女の勝ち誇った声が聞こえてくる。
「ま、まだ俺は負けちゃあいない……」
  そう言って立ち上がろうとしたときだった。
  俺は、自分の声に違和感を覚える。
  なんだ、俺の声、こんなに高かったか……?
  次いで、上体を起こしたとき、更なる違和感が俺を襲う。
  何かが、胸のあたりでぷるんと揺れる感触がする。さらには、いままで感じなかった重みがちょうど揺れを感じたあたりから伝わってくる……。
  視線を落とすと、そこには、見慣れぬ膨らみが存在していた。
  胸にできた二つの膨らみ。それが服を下から押し上げている。その押し上げ具合からして、服の下に隠されたそれが、かなりの大きさを持っていることは想像に難くなかった。
「こ、これは……」
  そう言葉が零れ出たところで、パートナーの慌て声が耳に飛び込んでくる。
「ち、違います! 彼女の言っているイセイは、“威勢が良い”のイセイじゃなくて、“異なる性”の方のイセイです! さらに言えば、さっきの言葉は私に向けての言葉で……」
  …………は?
  つまり、あの自称巫女は、俺のパートナーに向かって「さっきまでの異性はどうしたの〜?」と聞いていたということで…………つまりそれは、パートナーにとっての異性=オレがどうにかなっているということ…………
「その、彼女が祀っている祭神というのは、祭りの神と書きますが、実際には呪いの神なんです! つまり、ご主人様は祭神の呪いを凝縮した必殺攻撃を受けて……」
「デバフ効果で異性から同性になっちゃったっていうわけ! アハっ! 良かったじゃない、可愛くなれて」
  そんな、まさか……。
  だが、指を這わせた下腹部からは、そこに存在するはずの物体はどこにも感じられなかった。
  一瞬パニック状態に陥りそうになった俺だが、ゲーマーとしての経験がそれを制止する。
  い、いや、落ち着け……。これは呪い=デバフ、つまりはバッドステータスだ。ならば、ステータス回復の浄化スキルで対応できるはず……。
  だが、オレが行動に移る前に、いつの間にか近づいてきていた自称巫女が嗜虐的な笑みを浮かべながらオレの視界を埋め尽くす。
「!」
  次の瞬間、オレは彼女に唇を奪われていた。
「〜! 〜〜!!」
  同時に股間に這わされた巫女の指から、これまで感じたことのない刺激がもたらされ、オレの脳はかき回される。
  口を相手の舌で塞がれたまま、それでも助けを求めようと横目でパートナーに合図を送るオレ。
  だが、そんな彼女は顔を赤らめ、オレ達の姿を食い入るように眺めていた。オレの出した合図に気付いた様子はない。気のせいか、その片手は自身の下腹部に添えられているようにも見えた。
「ぷは!」
  長い長い接吻を終え、巫女が妖艶な笑みを見せる。
「浄化なんて使わせないわよ。その前に、あなたを元になんて戻りたくなくなるような、ダッサいメスザコに堕としてあ・げ・る♪」
  そう話している間にも、彼女の指は絶え間なく動き続け、脳に刺激を与えてくる。
  そして、もう一方の手が、オレの胸の先端へと添えられた。
「!!」
  さらなる刺激の中、オレは自分の完全敗北がそう遠くないことを悟っていた……。



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