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カードバトラー
作:高居空


「ガード!」
  声とともに手札からオレが放った2枚のカードが光を放ち、モンスターが出現する。
  大剣を振りかぶった敵モンスターとオレとの間に壁になるように現れたモンスター達は、放たれた一撃を俺の代わりに受けると、断末魔の叫びをあげながら光の粒子となって消えていく。
「へえ、まだガードできるだけのカードを手元に残してたとはね!」
  その光景に、敵モンスターの後ろに立つジムマスターが、感心したような声を上げる。
「なかなかやるようになったじゃない! ふっふー、成長してくれてアタシも嬉しいぞ♪」
  心底楽しそうな笑みを浮かべ、ご褒美とばかりにオレにウインクを飛ばしてくるジムマスター。よほど自分に自信がなければイタいムーブだが、あいつは、その仕草が様になるだけの容姿を持っていた。
  適度に日焼けした肌を大胆に晒した栗色の髪の美少女。どうしても目が惹き付けられる白いチューブトップに隠された大きな胸が作り出す谷間に、デニム地のホットパンツと、一見健康的なギャルといった感じの風貌だが、あいつの本質はその外見とは似ても似つかないものであることを、これまで何度も煮え湯を飲まされ続けてきたオレは嫌というほど理解していた。
  あいつはこう見えて、観察と分析に基づく緻密な計算の元動くことができる女だ。そして、その力はカードバトルの場において十二分に発揮されていた。外見に騙されて少しでも気を抜くと一気に押し込まれてしまうのはもちろんのこと、油断をしてなくとも、バトル開始後の数手でこちらの狙いを予測し、面倒な対策カードを繰り出してくる。さすがはジムマスターといったところだろうか。
(まあ、オレの残りの手札が2枚とも防御カードだとまでは読めてなかったみたいだけどな)
  オレは額から汗が垂れてくるのを感じながらも、口元にあえて不敵な笑みを作る。
  正直、オレは追いつめられていた。手札は今ので使いきった。次の俺のターンであいつのHPを0にできなければ、その次に待つあいつの攻撃を防ぐ術はない。しかし、今俺の場にいる攻撃モンスターでは、あいつの防御を突き破るにはパワー不足だった。相手の手札次第では攻撃が通る可能性もあるが、あいつがそんな甘い女だったら、オレがあいつに15連敗なんかするはずがない。

  メタバース空間で繰り広げられるカードバトル。互いにモンスターを召喚し、スキルやマジック、トラップと連携して相手プレイヤーのHPが0になるまで戦うこのゲーム世界で、オレはそこそこ名の知れたプレイヤーだった。
  このゲームでは、仮想空間のアバターに自身の意識を転送するような形で、まるでもう一つの現実世界のように、リアルな体験を経験することができる。そしてこの世界で、オレはカードバトルの腕を磨いてきた。
  このゲームにおけるカードバトルのモードは大きく三つに分かれている。まず一つが誰とでもバトルが楽しめる基本モードであるフリーバトルモード。次に、仮想世界の各地で開催されている大会モード。そして、大会モードで優勝経験があるプレイヤーだけが挑める最高難度のバトル、それが今オレが戦っているジムバトルだった。
  大会モードで優勝したプレイヤーは、各地に存在するジムと呼ばれるバトルフィールドで待つジムマスターに挑戦する権利を得られる。このジムマスターとの戦いがジムバトルだ。
  ジムバトルの魅力の一つは、なんと言っても勝利報酬の大きさだ。このゲームのプレイヤーランキングは、バトルに勝利したときに得られるポイントにより上下するが、獲得できるポイントが、ジムバトルは他の二つより一桁から二桁以上大きいのだ。
  このため、ゲームの上位プレイヤーのほとんどは、イベントで報酬ポイントが大幅にアップされる大規模大会の時期以外は、日夜このジムバトルでポイントを稼いでいるのである。
  だが、ジムバトルには、このゲームの熟練者でも一筋縄ではいかない特殊ルールがあった。
  それは、ジムごとに設定された追加ルールである。ジムマスターは、通常のバトルルールに加え、一つだけ任意でゲームのルールを追加設定することができるのだ。そして、プレイヤーはジムマスターに挑戦を表明するまでは、そのルールを知ることができない。前に挑戦した者から追加ルールの情報を得るという方法もあるが、追加ルールの情報のやりとりは禁止行為にあたり、それが運営にばれるとアカウントの永久剥奪措置を受けるため、表だってそうした行為を行う者はいない。
  つまり、プレイヤーは事前に対策をとることができないため、ジムバトルでは基本的にジムマスターに有利なバトルが展開されるということだ。ジムバトルに負けた後、再度同じジムに挑戦することはできるが、その場合、勝利したとしても得られるポイントは半分になってしまう。再戦して更に敗北した場合、次の再戦でのポイントはさらに半分だ。
  そう、ジムバトルの再戦は、ポイント効率の観点からみればやらない方が利口だ。だが、オレはこいつに16回目の戦いを挑んでいた。それはひとえに、あいつの設けたふざけた追加ルールにあった。
  ジムマスターは、AIが務める場合と、ジムマスターへの挑戦権を得たプレイヤー、つまりは大会優勝経験者のうち運営に志願した者が務める場合の二種類がある。このうち、プレイヤーからジムマスターになる場合は、ジムマスターを務める期間中プレイヤーランキングから除外されることから、その数はそれほど多くはないが、彼らの特殊ルールのバリエーションは、AIの比ではない。
  AIが設定する特殊ルールは、HPが半分、特定のカード使用不可、同じ種族だけで構成されたデッキを使用というような、誰でも思いつくような物ばかりだが、プレイヤーの場合は「何でこんなものを考えた?」というようなものを突っ込んでくることがある。実際に過去オレが戦った別のジムマスターは、自分のターンが回ってくるたびに「俺のターン! ドロー!」と叫ぶのをルールとしていた。そして、今バトルしているあいつも、そんなキテレツ系なルールをバトルに設定していたのだ。
  が、今は余計なことを考えている場合ではない。手札が無い以上、オレの勝敗は次の山札から引ける一枚にかかっている。ここで状況を打開できるカードを引けるかどうか……いや、絶対に引く!
「ドロー!」
  気合いと共に引き抜いた一枚。
「…………!」
  来た! 勝利へと続くキーカード……!
  それは、通常のデッキには組み込めない特殊モンスターを呼び出すための鍵となる魔法カードだった。このカードと今オレの場にいるモンスターを組み合わせれば、通常デッキとは別に用意されたエクストラデッキから、オレのエースモンスターを呼び出すことができる……!
  だが、本当にそれで良いのか?
  しかし、そのカードを切ろうとする俺の頭の中で、もう一人のオレが待ったをかける。同時にオレの脳裏では、あいつとの最初のバトルでの苦い思い出が蘇っていた。



「ふっふー、ここでアタシは儀式魔法を発動! 場の2体のモンスターを素体に、エクストラデッキから高位モンスターを召喚!」
  ジムマスターのターン、あいつは手札から得意げに魔法カードを発動した。あいつの前に控える2体のモンスターの足下に魔法陣が浮かび上がると、モンスターが床へと沈んでいく。
  ちっ、先に高位モンスターを召喚されたか。だが、儀式魔法により召喚されたモンスターは、強力な代わりに次のターンまで行動することができないのが弱点。そして、俺の手札には場のモンスターを進化という形で高位モンスターへと変える魔法カードがある。これにより現れる高位モンスターは、儀式魔法で呼び出されるモンスターと違い、現れたターンに攻撃可能だ。これで相手が行動できない間に決着を……。
  ジムマスターの動きを見ながら、今後の展開を脳内でシミュレーションする俺。だが次の瞬間、俺の目はあいつの体の一点に釘付けになる。
「♪」
  なぜかあいつは、エクストラデッキのカードを胸の谷間から引き抜いたのだ!
  な、何のつもりだ?
  ジムマスターの突然のお色気行動に動揺しつつも、男の業か、あいつの胸から目を離せなくなる俺。
  そういえば、このジムの特殊ルールは“エクストラデッキのカードは谷間から引き抜く事”っていう意味不明なものだったが、まさかこういう意味だったのか?
  混乱しながらもジムマスターの行動について推測している間に、あいつはウインクしながら「ターンエンド♪」と自ターンの終了を宣言していた。
  俺のターン。
  山札からカードをドローした俺は、先ほどの映像を振り払うように頭を振ると、バトルに集中しようとする。
  落ち着け。あれは俺の動揺を誘うための罠だ。あんな分かりやすい色仕掛けで冷静さを失うな……。
  自分に言い聞かせながら、俺は進化の魔法カードを手札から発動する。
「進化魔法! 場のモンスターをエクストラデッキの高位モンスターに進化させる!」
  その瞬間、あいつは目を細め、口元に意味深な笑みを浮かべた。
「へえ、エクストラデッキから高位モンスターを呼び出すんだ。でも、ここのジムのルール憶えてる? エクストラデッキのカードは谷間から引き抜かなくちゃいけないんだよ?」
  そしてあいつは、視線を俺の胸へと向けた。
「でも、そんなんじゃあ谷間からカードを引き抜くなんて無理だね。まずは谷間を作らないと」
「!!」
  その言葉が合図であったかのように、突然俺の胸がむくむくと膨らみはじめる!
「なっ、なっ!?」
  みるみるうちに服の上からでも分かる立派な二つの膨らみができあがる。
  そ、そんなバカな……。
  俺はカードを持っていない方の手を胸へと伸ばす。グニュリと柔らかい感触を感じると同時に、胸からは触られている感触が伝わってくる。
「へえ、立派なのができたじゃない。でも、そんなおおきなバストを持ってるなんて、男じゃありえないよね」
「!」
  胸をまさぐっていた俺の耳にその声が届くと同時に、股間から違和感が伝わってくる。
  なんだ、この感じ……。
  何とも言えないその感覚に、手を胸から股間へと移動させるオレ。そして気付く。そこに本来あるはずのものの感触がまったくないことに。
「な、ない!?」
  オレの口から、アニメキャラのような女の声が漏れる。
「うん、可愛くなったじゃん♪」
  はっと反射的に口に手を当てるオレを前にうんうんと頷くあいつ。まさかこいつが原因で……?
  だが、オレが問いつめるよりも先にあいつが口を開く。
「でも、その服じゃ谷間が見えてないから、カードを引き抜くことができないわね♪」
「! あっ、ああっ!?」
  あいつが言葉を発すると同時に、オレの服がぐぐっと縮み始める。
  着ていたジャケットの袖がスルスルとまくれ上がっていき、ノースリーブの何かへと形を変えていく。シャツがどんどんと縮んでいくと、オレの大きな胸を押さえつけるような感覚とともに、まるでブラジャーのような形へと変わっていく。剥き出しになった腰はくびれ、大きな二つの胸が作り出す立派な谷間が顔を出す。服の布地の色がオレンジに変わると、レースクイーンを思わせるビキニトップとノースリーブベストが完成する。
「こ、こんなっ!?」
  ズボンの裾が合わさりあい一本の筒になると、どんどんとその丈を短くしていき、やがてそれはミニスカートの形となり、上着と同じオレンジ色に染まる。
  現れた素足は一本のむだ毛もなく、スニーカーはいつの間にかオレンジのヒールへと姿を変えていた。
  オ、オレがこんなエロい格好のオンナ……に……。
  あまりにも非現実な現象の連続に言葉を失うオレ。バーチャル空間とはいえ、このゲームでは現実の性別とは別の性別のアバターは選べないはずだ。それが、こんな……。
  次の瞬間、新たな違和感がオレの胸のあたりに発生する。
  その違和感は、ちょうど胸の谷間の辺りから伝わってきていた。よく見ると、そこにはカードの束が挟まっている。カード……?
「うん、これでキミもカードを引き抜けるね。さあ、エクストラデッキからモンスターを召喚しなさいな♪」
「あ、ああ……」
  あいつの声に促されるように、オレの指がオレの意志とは関係なくプルプルと震えながら自分の胸の谷間へと伸びていく。
  や、やめろ……、やめてくれ……やめ
「ああん♪」
  だが、オレの思いは届かず、艶っぽい声とともにオレは自分の胸からカードを引き抜いていた。
「うん、なかなか色っぽいじゃない♪」
  その様子を見ていたあいつは満足そうな笑みを見せる。
「さあ、勝負はこれからよ♪ どんどん高位モンスターを召喚してアタシを楽しませてね♪ ああ、それと、アタシに勝たないかぎり、キミのアバターはそのままだから、頑張って勝利を目指してね! まあ、勝てなかったときはアタシがそのアバターの良さをあれこれ教えてあげるつもりだけど♪」
  な、何だって!?
  その言葉に焦りを覚えるオレ。あいつに勝たない限り、オレはオンナのまま……? いや、現実世界では男に戻れるんだろうが、このゲームにログインするたびに、オレはオンナになるというのか? そ、そんな……。



  …………。
  今のオレなら分かる。あいつは、動揺した精神状態で勝てるほど甘い相手じゃない。というか、認めたくはないことだが、展開を読む力や対応力、そして勝負勘といった地力は、あの時点のオレよりあいつの方が全て勝っていた。あの時オレが負けたのは必然だったといえるだろう。
  が、オレもいつまでもあの時のオレじゃない!
  意を決したオレは、手札の魔法カードを発動する。
「超進化魔法発動! 対象モンスターを最終進化モンスターに!」
  そしてオレは自らの意志で胸の谷間へと手を伸ばす。
「うん♪」
  柔らかな肉の間から目的のカードを引き抜くオレ。
  それを見ていたあいつは、しかし余裕の笑みを崩そうとはしなかった。
「へえ、絶体絶命のピンチにキーカードを引くなんて、キミもなかなかやるようになったじゃん。でも、それだけでアタシに勝てるなんて思わない事ね。きっちり返り討ちにして、その後は、いつもみたいに可愛がってあげるから♪」
  っ、好き勝手言ってくれるな。今からほえ面かかせてやるから覚悟しろ!
  あいつの挑発ともいえるその言葉に闘志を燃え上がらせるオレ。だが、オレの体は心とは別の動きを見せていた。“いつもみたいに可愛がってあげる”、そのフレーズが耳に届いたとき、オレの下腹部はキュンと独自の反応を示していたのだった……。



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